手元のストックにあるスペシャルピースをご紹介します。
こちらはフランスのブラックモールスキンジャケットです。ヴィンテージのブラックモールスキン自体が稀少ですが、こちらは群を抜いて稀少な個体かとおもいます。
画像の通りに襟のないノーカラージャケットで、ボタンすらありません。
もちろんながらリメイクではなくオリジナルの仕様であり、はじめからボタンホールも開いていません。作業時に上着として一枚重ねる、カーディガンのようなものとしてつくられたためにこのような仕様なのだとおもわれます。
テーラードカラーはまだしもスタンドカラーのものですらほとんど市場に出てきませんので、ノーカラーとなると恥ずかしながら同様のものを手にしたことがありません。
タグが付いていた形跡もなく年代未詳ながら、おそらくは40s前後、30sから遅くとも50sはじめのものとおもわれます。ポケットのステッチはストレートですが、生地や糸、縫製などはより古い年代の特徴を備えているようにおもいます (ただし、そもそも通常の既製服と同じ基準で判断してよいのか分かりかねるため、いずれにせよ推定が難しいです)。
生地は中厚手で、同素材のジャケット一般よりもわずかに薄手かもしれません。フロントを閉じることができないつくりなので防寒にはそこまで重きが置かれていないようです。まさしく羽織りものという感がします。
着用者は170cm / 60kgです。
EU44から46あたりのサイズ感です。生地は柔らかく馴染み、自然に褪色しています。
大切に着られていたようで左胸がブラックシャンブレーでパッチされている他にはダメージもありません。
青いモールスキンは職工、黒いモールスキンは農夫や鉱夫が主たる着用者であったとされていますが、羽織ってみると、これは農夫の衣服であろうというあて推量が確信に近づきました。
短めな着丈なども含めて日本の野良着とよく似ています。
地域も時代も超えて農耕従事者の労働着が同じような形状に着地したとすればおもしろいことだと感じ、勉強になりました。
博物館級とまではいかずとも、資料としての価値はある一着かとおもいます。