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欧州古着の蒐集と販売についての雑感

【Special Piece】20s-30s FRENCH ARMY BOURGERON JACKET / ヴィンテージ フランス軍 コットンツイル チョアジャケット

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未詳ながら古い年代のフランス軍のブージュロン、作業用のジャケットです。

スタンプはなく、仕入れの際に1921年採用のモデルであろうという説明を受けましたが、不勉強ゆえにそれを裏付けることはできませんでした。レイルロードジャケットの可能性も考えましたがそれにしては色が淡く、エポレットの感じなどもミリタリーと捉える方が自然におもえます。そして各所の仕様はたしかにそのあたりの年代の特徴を備えています。

しばしばみかける1938年モデルのブージュロンとよく似た型ながらディティールが異なります。

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まず、フロントボタンの数が違います。フランス軍の30s以降のジャケットの多くはフロントボタンが5つであるのに対し、こちらは7つです。

そしてバックのデザインにも違いがあります。こちらにはウエストベルトがなく、サイドのヨークが中央を深くまで抉っています。

こうしたディティールからやはり20sあたりのジャケットであろうとおもわれます。ボタンホールのハンドステッチもよい表情です。

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参考として、手元にあるM35を並べてみました。

M35は1935年から1938年まで採用された幻のモーターサイクルジャケットであり、同年代のブージュロンとも型がよく似ています。先に述べた箇所を較べるとM35の方がより新しい仕立てをされている、すなわちこちらのブージュロンが1935年以前のものであろうことがわかります。フロントとバックのディティールの違いが大きいです。

なお、こちらのお品は左右に裏ポケットがついています。また、袖はストラップやボタンのないシンプルな仕様です。チンフックのパーツはM35と同じものかもしれません。

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お話が逸れますが、文化史的にみるとボタンの数は社会的な階級と製造された年代の指標となります。

後者について、ミリタリーウェアを含む19世紀以降のジャケットは、大局的にみれば古い年代から新しい年代へと移るにつれてボタンの数が少なくなります。それにともない襟が折られてVゾーンが深くなり、スタンドジャケットからラペルドジャケットへと展開していきます。

(たとえば学生服では学ランとブレザーがわかりやすくこれに対応していますが、おもしろいことに両者はパターン自体にはさして違いがなく、学ランの襟を折ればブレザーと、ブレザーのラペルを立てれば学ランとほぼ同じ形になります。)

ミリタリーではスタンドカラーであるかどうか、WW1以前か以後かでボタンの数に大きな違いがあり、年代を測る目安となります。そういった基準に即して、折襟でありながら7つボタンであるこちらのお品はそれなりに古いものだと判断して差し支えないと考えます。

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着用者は170cm / 62kgです。

おそらく最小サイズであり、わたしでタイトな着用感です。インナーを厚手にすると窮屈になりそうです。肩幅が実寸37.5cmとかなり小さいのですがやはり現代の服とはパターンが違うのかそこはとくに問題なく、身幅もちょうどでボタンはすべて留めることができます。ただしアームホールの周りはやや窮屈であるため、わたしと同程度の体形の男性が着るのであればTシャツの上からさっと羽織るのがストレスがない着方なのかなとおもいます。袖丈も短めなので捲ってバランスを取るにも前は開けた方がよさそうです。女性にジャストで着ていただけるかもしれない、サイズとしても非常にめずらしいお品です。

 

出自を明らかにするスタンプがあれば価値はより高くなったかもしれませんが、フランスの古くてよいジャケットであることになんらの変わりもありませんので、ほんとうにお薦めの一着です。